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最高裁判所第二小法廷 昭和26年(れ)322号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人広田伝次弁護人重山徳好の上告趣意について。

所論は臨時物資需給調整法第一条、漁業資材配給規則第一条の規定する統制物資の取締の対象となるのは生産者より消費者に物資が配給されるまでの間の行為についてであり一度消費者の手に配給された後は消費者が該物資を自己の営業用に利用するとも、又は配給を受けた後に廃業、転業等のためにこれを他の消費者に譲渡するとも、或は又債権者に対し担保に供するとも消費者の自由であってこの場合取締の範囲外である。蓋し一度消費者の手を経た物資は故品と解すべきであるから臨時物資需給調整法や漁業資材配給規則の適用の対象にならない。然るに原判決がこれに対し前掲法令の違反として有罪の裁判をしたのは重大なる事実の誤認と擬律の錯誤があるというにある。

しかしながら漁業資材配給規則第九条には漁業資材は購入券と引換でなければこれを譲り渡し又は譲受けることができないと規定してありその生産者たると消費者であるとを区別しないのであってこれは本件物資の配給統制の要請でありこの規則が準拠した昭和二二年内閣訓令第三号指定配給物資配給手続規程第三条の趣旨でもある。若し所論のように配給を受けた消費者が自由にその資材を処することができるとすれば本件物資統制の制度はその一角から崩れることになり、その目的を貫くことができなくなるであろう。しかして又仮令消費者に配給されたものであっても漁業生産のために使用したことのないものは、単に消費者の手を経由したという一事をもって、直ちに故品と目することは妥当でないのである。されば本件資材を新品として当該規定を適用した原裁判は正当である。以上説明するところによって原判決には所論のような違法の存しないことは明らかであるから論旨は採用の限りでない。

被告人大家五郎右衛門の上告趣意について。

所論は畢竟原審の自由なる裁量に委ねられたる事実の認定を非難するものであって、上告適法の理由にならない。

よって刑訴施行法第二条旧刑訴法第四四六条に従い全裁判官一致の意見により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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